ゴッホの生きた人生 5
「ここの土地は実に絵のようで、実に独特だ。
言わば、そこでは、すべてが語っているのだ。
すべてが特色にみちているのだ。
クリスマス前の陰轡な日が続く近頃は雪が降り積っている。
そして、すべてのものが、たとえば『百姓』ブリューゲルの中世紀の絵を、あるいはまた、赤と緑、黒と白の独特の効果を実に見事に表現するわざを心得ていた多くの人たちの絵を思い出させる。
ぼくはここへ来て何を見てもテイス・マリスやアルブレヒト・デューラーの作品を思い起すのだ。
ここには茨の茂みが異様な形の根を張った、ふしくれだった古木などが蔽いかぶさった中くぼみの道があるが、デューラーのエッチング『騎士と死』の道にまったくそっくりだ。
ことに先日、たそがれどきに、自い雪の上を家路につく坑夫たちの姿を見たが、それは、魅せられるような眺めだった。
この人たちは、まったくまっ黒だ。
彼らが暗い炭坑から陽のあたる明るみへ出て来たときは、まったく煙突掃除夫そっくりだ。
彼らの家は実に小さくて、小屋と呼んだ方がいい。
それらはあるいは中くぼみの道にそって、あるいは森の中に、あるいは丘の表面に点々と散らばっている。
あちらこちらに苔むした屋根が見える。
夕方になると、小さなガラス窓ごしになつかしい灯がともるのが見える。
ぼくらのブラバントには、輪伐林や樫の萌芽林があり、オランダには柳の刈込樹があるように、ここには庭や畠や耕地の周囲をかこむ黒い茨の生垣がある。
いま、雪が積もっているので、ちょうど白い紙の上の文字のような効果を出し、まるで福音書のページのようだ」。